非特異的腰痛と特異的腰痛
非特異的腰痛は、「原因がよくわからない」ものの「心配する異常や病気 のない」「危険ではない」腰痛といい換えてもよいでしょう。信号でいえば、”青信号”の腰痛です。いわゆるぎっくり腰(腰椎捻挫)や変形性腰椎症な ども、画像検査で「ここが原因!」と 特定することが難しく、非特異的腰痛 に入ります。 これに対して特異的腰痛は、診察や 画像診断で原因が特定できる腰痛です。 坐骨神経痛を伴う椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、〝赤信号〞の腰痛と もいわれる感染性脊椎炎や脊椎腫瘍など整形外科の病気のほか循環器科、泌尿器科、婦人科などのさまざまな病気が原因で起こる場合もあります。
椎間板の髄核のずれと心理的ストレスが関係
非特異的腰痛は、腰への負担が引き金となって起こる(病気というほどではない)脊椎の不具合と、心理的ストレスが関係する脳機能の不具合の2つの要因で起きると考えられます。
脊椎の不具合は、前かがみや猫背姿勢、腰を反らした状態、不適切な持ち上げ動作など、姿勢や動作が腰に負担をかけ、椎間板の中央にある髄核がずれることで起こることがあります。 前かがみ姿勢や猫背姿勢では、髄核が後ろにずれることによって腰の重だるさや痛みを生じます。
また、ハイヒールを履いて立ち続けるなど、腰を反らした状態が続くと髄核は前にずれ、腰に痛みを生じることがあります。
脳機能の不具合には、仕事や人間関係でのトラブル、腰痛に対する恐怖や不安などの心理的ストレスが関係しています。心理的ストレスが強まると、ドパミンやオピオイドという痛みを抑える脳内物質が分泌されにくくなり、痛みが起こりやすくなります。
また、ドパミンの分泌が低下すると、神経のバランスを保つセロトニンという脳内物質の分泌も低下します。そのために自律神経のバランスが崩れ、腰痛、背中の張り、肩こり、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、睡眠障害など、さまざまな症状が現れやすく、複数の症状が重なったら注意が必要です。
「これだけ体操」で髄核のずれを戻す
髄核は、軽いずれであれば容易に元に戻りますが、大きくずれるとぎっくり腰や椎間板ヘルニアに発展します。腰に負担がかかる姿勢や動作を続けたときは、下で紹介するこれだけ体操を行ってみてください。
このとき、「正しい髄核の位置」をイメージし、違和感がある場所をしっかりストレッチする気持ちで行うことがポイントです。
髄核のずれは、ためずに、こまめに戻しておくことが肝心です。日々の腰痛ケアとして「これだけ体操」を習慣化しましょう。
非特異的腰痛は大きな心配のいらない腰痛ですが、これを悪化させたり、治りにくくする黄信号(要注意状態)があります。それは「また腰痛になるのでは」という不安や恐怖から過度に腰をかばってしまう恐怖回避思考です。
恐怖回避思考そのものも心理的ストレスになりますが、腰をかばい過ぎて体を動かさくなると、脊椎や周辺の筋肉の柔軟さが損なわれ、かえって体の痛みが生じたり、髄核がずれた状態で固定され、腰痛が治りにくくなったり、再発するリスクが高まります。
ぎっくり腰の場合でも、安静にするのは2日まで。できる範囲で活動的に過ごすほうが、再発率が減ります。
自分に合った方法でストレスを上手に解消
イライラしたり、人間関係に悩んでいたら、誰かに自分の話を聴いてもらったり、日記やノートに思いを綴ってみると、相手や自分を客観的に見ることができ、気持ちが楽になります。わくわくする音楽は、脳内物質ドパミンの分泌を促し、ウオーキングや呼吸法(吸う息より吐く息に時間をかけて行う)は、セロトニンの分泌を高めます。自分に合った方法でストレスに上手に対処して、腰痛につながる脳機能の不具合を予防しましょう。
また、心理的なストレスを抱えたまま、持ち上げ動作などをすると、姿勢バランスが微妙に乱れて椎間板への負担が増し、腰痛を起こすリスクを高めますので注意しましょう。
上記の赤信号(危険なサイン)が1つでもあれば、原因疾患がある可能性が高いと考えて受診しましょう。なお、赤信号ではあ
りませんが、痛みやしびれがお尻からひざ下まで広がる場合は、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症による神経症状(坐骨神経痛)
の可能性が考えられます。

明らかな異常や病気が認められない青信号(安全な状態)の腰痛です。
腰痛は、主に運動器の不具合による訴えですが、脳機能の不具合が影響していることがあります。

不安や恐怖、心理的ストレスは、青信号の腰痛を悪化させ
たり治りにくくする黄信号(要注意状態)の代表格です。